日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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第651回森透氏の研究発表【プログラム・ノート】

第651回森透氏の研究発表【プログラム・ノート】

<第651回例会>
*日 時:2022年5月28日(土曜日)  午後3時~5時 (オンラインで実施)
*参加事前登録の締め切り:2022年5月25日(水曜日)  午後11時59分
*プログラム:
 ☆「私の研究の歩み~自由民権から大正新教育~」
                            森  透 氏
                     司  会   大戸 安弘 氏

【プログラム・ノート】
私は古稀となり、昨年2021年3月末で福井大学と福井医療大学を退職した。この度、今までの研究の歩みを振り返りこれからの人生の展望を描いてみる機会を与えていただき感謝している。昨年4月の日本教育史研究会機関紙『日本教育史往来』251号(2021年4月30日)にも「教育史と私―『窓ぎわのトットちゃん』と教育史研究」と題する省察を書いているので参照されたい。私は、卒論、修論とも「自由民権運動と教育」を対象としてきた。卒論は東京教育大学教育学部で大学紛争が激しかった時期に、教科書裁判で著名な家永三郎先生に若干お世話になり「植木枝盛の教育思想」というタイトルで、その後修論は自由民権研究を継続し長野県の事例で「松本奨匡社の自由民権運動と教育-『基本的人権』論と人間像を手がかりとして-」とした。ここでの問題意識は、西欧的な近代的人権論や教育的価値を目指しつつも、他方で日本的な儒学思想や伝統思想との相克という点も追究したいテーマであった。当時、色川大吉の『明治精神史』や民衆史の安丸良夫、鹿野政直などの文献を読んでいた。その後、茨城県や栃木県の自由民権の事例研究を行い、35歳で福井大学に着任してからは越前の自由民権運動(杉田定一)をまとめた。大学では授業で日本教育史と外国教育史の両方を担当しなければならないという状況や、現実の子どもたちの豊かな学びを追究したいという思いもあり、歴史研究では明治期から大正期に時期を拡げたことで、福井県三国の小学校の実践と出会うことになる。三国尋常高等小学校(現・三国南小学校)が当時米国の教育者ヘレン・パーカストが訪問した学校であったこと、「自発教育」という実践を三好得恵校長が推進し全国的に著名な学校であったことなどがわかってきた。三好の次男・秋田慶行氏への聞き取り調査も行った。三国南小学校には明治・大正期からの学校日誌・学籍簿等が大切に保存され、それらを感動をもって見させていただいたことを思いだす。これらの歴史研究と同時並行して、当時の小学校では「総合学習」に注目が集まり長野県伊那市の伊那小学校の「総合学習」の研究大会に毎年学生と一緒参加するようになった。私の中では、大正期の教師たちの子どもたちの学びの支援と現代の支援が重なった思いであり、過去と現代の往復運動を常に心がけていたように記憶している。この伊那小の「総合学習」の源流が、長野師範附属小の「研究学級」の総合実践(淀川茂重)にあることがわかり、今の信州大学教育学部附属長野小学校の総合実践につながっていることに衝撃的な感動を味わった。
その後、歴史研究からは離れてしまった感があり、福井大学教職大学院の担当スタッフとして現場の先生方との相互の学び合いに没頭していった。夜行バスで学生や院生を連れての伊那小学校への毎年の参観は比較的最近まで続けていたように思う。古稀が近くなり今までの研究を著作にまとめたいと考え、2020年5月に『教育の歴史的展開と現代教育の課題を考えるー追究―コミュニケーションの軸からー』(三恵社)という単著を初めて出版した。本書は、3つの柱(歴史研究、教職大学院、養護教諭養成)から構成されている。サブタイトルの「追究―コミュニケーション」は今までの研究を串刺しにする視点と考えた。              〔森透氏 記〕

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