日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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2018年2月24日(土) 第620回例会:熊澤恵里子氏【プログラム・ノート】

2018年2月24日(土) 第620回例会:熊澤恵里子氏【プログラム・ノート】

日時:2018月2月24日(土曜日)午後3時から5時

会場:立教大学 池袋キャンパス 12号館2階 会議室
   〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1

アクセス:「池袋駅」下車 西口より徒歩約7分

プログラム:越境する科学―獣医学教師マックブライドからヤンソンへ―
熊澤 恵里子 氏(東京農業大学)

【プログラム・ノート】
 日本における学問・産業・文化の近代化は欧米の知識・技術の導入及び受容の成果として常に語られる。なかでも、高等教育の組織体制及び学問研究の形成は、明治初年に招聘された外国人教師に依拠する点が大きい。世界情勢を見据えての緻密な情報収集により、医学はドイツ、法学は仏国、工学は英国、理学は英国・米国など、最善なる学問を目指して国別の取捨選択がなされた。明治十年代後半になると、欧州で強力な軍事力を誇るドイツの国家体制を範に法制度を整え、学問・産業等もドイツへ傾倒した。高等教育において後発の農学教育も、同じ頃英国からドイツへの転換が図られた。高等教育研究においては、高等教育の組織及び各学問分野の形成を国別に分析・検討する。あるいは、外国人教師の出身国や出身大学の教育の影響を示唆するものが多い。しかし、当時の欧州を見た場合、とりわけ自然科学系の学問においては、国別という縦割りに区分し考察することは、ともすれば科学者の本質を無視し、学問研究の横のネットワークの存在を見落とすことにもなりかねない。科学の探求に国境はないのである。
 発表者が近年取り組んでいる農商務省官立学校、帝国大学農科大学の研究について、先行研究では日本の学問全体がドイツ学に傾倒した、駒場農学校の英国流が日本の実態とかけ離れていた、ドイツ系官僚農商務省品川弥二郎の影響による、英国よりもドイツの方が農業教育は発達しており人材が豊富だった、などが指摘されているが、決定的な論拠は十分に示されているとはいえない。しかし発表者は、獣医学教育における英人教師マックブライドからドイツ人教師への選択はスコットランド獣医学校教師からの紹介であったことを、史料発掘により具体的に明らかにした(2016年11月6日「大学史研究会第39回研究セミナー自由研究発表」レジュメ12~14頁参照)。本発表ではさらに資料を加え、獣医学教育の形成過程を中心に英国からドイツへの選択理由を明らかにする。また同時に、現在の教育史研究における縦割りの国別分析・考察方法ではなく、より学問上の進歩と比較検討に重点を置いた研究の必要性を唱えたい。
 本発表は、JSPS科研費15K04249「日欧米史料による帝国大学農科大学の総合的研究」(研究代表者熊澤恵里子)の研究成果である。
〔熊澤恵里子氏 記〕

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