日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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7月27日第671回例会(オンライン実施)和崎光太郎氏の研究発表【プログラムノート】

7月27日第671回例会(オンライン実施)和崎光太郎氏の研究発表【プログラムノート】

<第671回例会>【プログラムノート】
*日   時:2024年7月27日(土曜日)  午後3時~5時 (オンラインで実施)
*参加事前登録の締め切り:2024年7月24日(水曜日)  午後11時59分
*参加方法は、「インターネット上での例会参加の事前登録について」をご覧ください。
*プログラム:〈知的障害〉と学校
                       和崎 光太郎 氏
            司  会  前田 一男  氏
【プログラムノート】
 報告者は近年まで、〈青年〉など教育に関する概念の歴史、および学校の特にこれまで看過されてきたもの・ことの歴史に興味を抱き、研究を進めてきた。本報告では、これまでの報告者の研究成果を基礎として、教育史学として扱うには真新しい〈知的障害〉という概念が学校とどのようにリンクしているのか、その見取り図を描くことを試みたい。
 なぜ概念を対象とするのか。概念研究といえば、「実態なのか概念なのか」という問いが提示されがちであるが、この二項対立における「概念」ではなく、議論の段階ですべての実態は概念化されていることに常に意を用いたところの概念を研究対象とする。ここに概念史研究は、単に概念の意味変容をなぞるだけの作業ではなく、実態史のダイナミズム(力学関係)を支えた思想的基盤を解明するための必要不可欠な研究となる。
 〈知的障害〉という概念をターゲットとする理由は、社会的弱者を扱いたいという慈善的心情や義憤ではなく、これまで看過されてきたという穴埋め的な発想でもない。代替不可能な障害といわれる〈知的障害〉は、「学校の位置が社会や生活で占める部分が大きくなり、知識量とその操作能力が人の価値を左右するような時代では、知的障害児は生きづらい」(中村満紀男編『日本障害児教育史【戦後編】』明石書店、2019年、902頁)という状況を引き起こす特性をもつ者を集団として把握する概念であり、この意味において、〈知的障害〉と学校というテーマは近代学校またはそこで行われた教育の実態をよりリアルに炙り出し得ると考えるからである。この「生きづらい」状況は、学校内ではなく学校化された社会においては、小学校(小学部)より中学校(中等部)、中学校(中等部)より高等学校(高等部)、高等学校(高等部)より大学(高等部専攻科)と就学年齢が上がり、学校の機能が「知識量とその操作能力」に重きを置かれるにつれて顕著になる。例えば、高等学校ではなく特別支援学校高等部に在籍する生徒は、「高校生」ではない。しかし、「学校階梯に回収される可能性を持っていたあらゆる者がどう影響を受けたのか」(拙稿「ピラミッド型学校階梯の機能――包摂が生み出す「排除」、排除が生み出す「包摂」――」『大学史研究』第27号、2019年、197頁)という点から学校階梯を視野に収めるならば、高等部在籍生は「高校生」という他者を常に参照しながら自己を把握するのが常であり、特別支援学校生に半ば強いられているこのような「把握」は一体何なのか、この「把握」はどのように構築され、どこに向かおうとしているのかという問いに対して、現在の学問水準では何も回答できないのである。
 以上の問題意識から、本報告では、〈知的障害〉の現在の位置を定義レベルと社会的認識レベルで整理し、〈知的障害〉の成立史を学校との関係において整理することで、冒頭で述べた見取り図を提示したい。
                        〔和崎光太郎氏 記〕

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