日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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2016年7月23日(土) 第604回例会:府川源一郎氏【プログラム・ノート】

2016年7月23日(土) 第604回例会:府川源一郎氏【プログラム・ノート】

日時:2016月7月23日(土曜日)午後3時から5時

会場:立教大学 池袋キャンパス 12号館2階会議室
   〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1

アクセス:「池袋駅」下車 西口より徒歩約7分

プログラム:鳥山啓の明治初期の仕事―ひらがなによる初等教育用教科書類の作成―
府川 源一郎 氏(日本体育大学)

【プログラム・ノート】
 鳥山啓(とりやまひらく・1873-1914)は、軍艦マーチの作曲者、あるいは南方熊楠の和歌山中学校における師として知られている。だが、鳥山は明治初期に翻訳啓蒙家として大きな仕事をした。それにもかかわらず、これまでほとんど鳥山の仕事については、言及されてこなかった。
 発表では、まず、彼が刊行した翻訳啓蒙書の代表的な著作である『さあぜんとものがたり』を検討したい。この本は、アメリカのリーダーであるSargent’s Standard Readerから、いくつかの教材を選んで訳した翻訳啓蒙書である。初編が1873(明治6)年、二編がその翌年に刊行された。同時期には、ほかにも翻訳啓蒙書を出版した人たちがいるが、それらの仕事は漢字仮名交じりの子どもが独力で読み進めるのには、難しい文章文体だった。これに対して、鳥山の翻訳は、きわめて平明で、ストーリー展開の面白さを満喫できる翻訳になっている。
 鳥山の先駆性は、この『さあぜんとものがたり』を始めとして、全文ひらがなによって記述した著作を数多く刊行したところにある。鳥山は、近代日本の教育制度を定めた「学制」に示された各教科用の初等教科書に該当する書物を、すべてひらがなによって記述した。この時期、各教科の教科書を独力で、それも文字改革を進めようという強い意志のもとに実際に出版にまでこぎ着けた人物は、鳥山を除いて他には存在しない。
 このように明治初年の鳥山の仕事は、きわめて先駆性に富んだ、教育的意義を持ったものだった。しかし、「かな」だけで記した子ども用の読み物は、大方の受け入れるところとはならなかった。教育に対する時代の要請は、子どもたちをできるだけ早く大人たちが使用している文章・文体の世界に導き入れることだったのである。結局、鳥山の試みは、時期尚早だったのだろう。しかし、実際に各教科の教科書となる児童読み物を作製し、それを続々と刊行したという業績は、今日あらためて見直され、再評価されてしかるべき意義がある。
〔府川 源一郎氏 記〕

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