日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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12月24日第656回例会 前田晶子氏の研究発表 プログラムノート

12月24日第656回例会 前田晶子氏の研究発表 プログラムノート

*日 時:2022年12月24日(土曜日) 午後3時~5時 (オンラインで実施)
*参加事前登録の締め切り:2022年12月21日(水曜日) 午後11時59分
*プログラム:
☆幕末維新期におけるdevelopment の訳出と変容〜発達概念の形成史の試み〜
     前田 晶子 氏
 司 会 大島 宏 氏

【プログラム・ノート】
 近年、「子ども」を定義することが難しくなっている。例えば、年齢による定義は容易ではなく、2022 年7月に閣議決定された「こども基本法」では、「この法律において「こども」とは、心身の発達の過程にある者をいう」とされ、あえて年齢は明記されていない。このような子ども・子ども期の輪郭が曖昧化する傾向は、日本に限ったことではなく、子どもの権利保障や生涯発達論をめぐる論議が進む中で、単なる生物学的な物差しではなく、より複雑で社会的文脈に即した子どもの捉え方が求められるようになっている。つまり、普遍的な枠組みとしての子ども像は後景に退き、個別の「子ども理解」が重視され、発達のかたちもさまざまであると論じられるようになっているのである。
 発表者は、2000 年頃から日本における発達概念の形成史研究に取り組んできたが、この時期の研究背景として、1970・80 年代以降の発達論批判――教育思想史研究における近代教育批判や、反発達論など――があった。発達概念は、個人の能力の十全な発現という近代教育の理想を支えるものとしては十分ではなかったし、むしろその理想とは正反対の競争主義や規範主義を許容してきたのではないかという批判である。発表者は、これらの批判に共感しつつ、なぜ発達概念が日本に定着し、広がったのかを歴史的に明らかにすることを試みてきた。しかし、現在では、単なる発達論批判はアクチュアリティを失ってしまい、「発達論の不在」ともいえる状況が広がっているのではないかと考える。
 このような変化を踏まえつつ、今回の発表では、改めて発達概念の形成史を辿り、翻訳語として登場した「発達」が、日本の社会的文脈のなかでどのように受容されたのかを論じたいと考えている。この語彙は、1840 年代にオランダ語を介して日本に紹介され、1880 年代には辞書上で development との対訳関係が成立している。その数十年に渡る翻訳語の誕生のプロセスは、決して単純ではなかった。その訳出の仕事は、いわば新しい近代社会における普遍的な人間像の表象を生み出すものであったのである。その過程を辿ることを通して、概念としての有効性を失いつつある「発達」の現在的課題について考えたい。。
    〔前田晶子氏 記〕

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