日時:2018月5月26日(土曜日)午後3時から5時
会場:立教大学 池袋キャンパス 地下 第3会議室
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
アクセス:「池袋駅」下車 西口より徒歩約7分
プログラム:幕末・維新期における江戸町方住民家族の実態と孝行の諸形態
早川 雅子 氏(九州大学)
【プログラム・ノート】
1700年代末、江戸では、流入民の家族形成が本格化した。彼ら都市家族は、夫婦と子供たちから構成される小家族で、子どもを中心に据えた血縁と情緒とを紐帯とし、江戸の地に家族の生活の場を築き上げるため、すなわち江戸定着を目的に自助努力した。その家族中心的傾向と‛考え・働く個人’という意識の萌芽という点に近代との連続性を認め、1700年代末からの約80年間を近代への過渡期と位置づける。
近代への過渡期、民衆道徳における第一義的徳目は、孝である。発表者は、(1)思想史的観点から、民衆道徳における孝の特質、及び儒学の孝から民衆道徳の孝への展開過程を研究、併せて(2)孝を実践する主体=民衆の実態解明という観点を立て、幕末・維新期の江戸町方人別帳をデータベース化、住民構造や世帯構成を分析してきた。
(1)孝の研究では、近世日本儒学における孝思想の源流として、太宰春台撰『古文孝経 孔子伝』・中江藤樹の孝恩の思想・貝原益軒の恩の思想の三者を設定し、儒学の孝の展開過程を考究した。その結果、①1700年代後半を画期として、民衆道徳に特徴的な孝道徳が現れ、普及していく。②その特徴は、教養、職業、階層等に応じた具体的かつ日常的な教訓が説かれるようになる点、孝を天性の道と定め、孝行を逼る根拠として生育の恩を設定する点にある。③民衆道徳における孝は、儒学をはじめ、仏教や神道の取捨選択、編成しており、儒学の孝の展開過程としての体系的な跡付けは難しいことを明らかにした。
(2)民衆の実態に関しては、東京都新宿区四谷地域の三町(四谷塩町一丁目・麹町十二丁目・四谷伝馬町新一丁目)人別帳データベースの分析によって、幕末・維新期の都市家族の実態を解明した。その結果、①標準的家族形態は、夫婦世代一代を基本とする核家族であり、子どもは独立して自分の家族を作る傾向にある。したがって、②親世代と同居して孝養を尽くすという形での孝行は一般的とはいいがた、という都市家族の現実を提示した。
これらの研究成果から、都市家族における孝とは、①人が生涯をかけて学ぶ、②家族(あるいは家)を形成し、家族とともに世間を生き抜くために実践すべき規則や心構えの総体であり、③職業や階層に応じた諸形態があると結論づけた。
発表では、人別帳データベース分析による幕末・維新期の都市家族の実態を紹介し、実態のなかから孝行の諸形態を開示する。発表を通して、近代への過渡期における民衆の孝道徳に関する視座を提供したい。
本発表は、日本学術振興会平成29年度科学研究費補助金(基盤研究C:課題番号 17K02262 近代への過渡期の都市住民家族における孝行の諸形態と主体形成)による研究成果の一部である。
〔早川雅子氏 記〕