日本教育史学会

日本教育史学会は1941年から毎月の例会を開始し、石川謙賞の授与と日本教育史学会紀要の刊行を行う、日本の教育の歴史についての学会です。

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2018年3月24日(土) 第621回例会:木村政伸氏・辻本雅史氏【プログラム・ノート】

2018年3月24日(土) 第621回例会:木村政伸氏・辻本雅史氏【プログラム・ノート】

日時:2018月3月24日(土曜日)午後3時から5時

会場:立教大学 池袋キャンパス 5号館 第1会議室
   〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1

アクセス:「池袋駅」下車 西口より徒歩約7分

プログラム:入江宏先生の生涯と業績について
木村政伸 氏(九州大学)
辻本雅史 氏(中部大学)

【プログラム・ノート】
 2017年6月26日に入江宏先生が逝去された。日本教育史学会では長年に渡って世話人として学会運営に主導的な役割を果たしていただくとともに、とくに後学の若手研究者に刺激を与え、研究面での支援を惜しまれることがなかった。優れた研究者の多くがそうであるように、閉鎖性から縁遠いところにあって、次世代の活動を後押しするような存在だったことは、衆目の一致するところであろう。1980年代以降の本学会で世話人といえば、石川松太郎先生、入江宏先生、久木幸男先生などの姿が思い浮かび、例会には心地よい緊張感が生じていたことが思い起こされる。こうした例会の雰囲気は引き継ぎたいものである。
 2009年の石川会長逝去後の本学会の危機的状況を乗り越えることができたのも、入江先生の的確な状況判断に基づく具体策の提示があったればこそ可能であった。バランスのとれた柔軟な発想から問題に対処され、課題をクリアーにするための道筋を提示されたことを受けて、現在の理事会体制もあることから、先生にはこれからも見守っていただきたかったとの思いが強く残る。
 第621回例会では、入江宏先生の生涯を振り返りながら先生が残された主な学問的業績の意味を問い、さらに後学が取り組むべき課題の在りようについて検討することとしたい。
 入江先生は近世教育史分野を中心とする研究活動を展開され、その成果は既存の研究動向にインパクトを与えずにはおかないものが多かった。東京教育大学大学院での修士論文「町人的職業観の成立と教育~元禄・享保期を中心として~」以来、一貫して近世の庶民教育に関するテーマに取り組まれた。その後北海道学芸大学函館校に着任されたが、その前後の初期の主な論考としては、「町人社会における家業意識と教育」(『日本の教育史学』第4集、1961年)、「近世商家における同族結合と家訓の教育的機能」(『北海道学芸大学紀要』第13巻1・2号、1962年)、「近世商家における惣領教育~佐野屋孝兵衛家の記録をとおして~」(『北海道学芸大学紀要』第16巻1号、1965年)などがある。1969年に宇都宮大学に異動し、「越後屋(三井家)における奉公人教育の思想と制度~店式目成立期を中心に~」(『日本の教育史学』第13集、1970年)をまとめた後、1970年代から80年代にかけて栃木県史編さん委員会近世部会に参加された。北島正元、河内八郎、長谷川伸三、深谷克己などの近世史研究者との交流のなかで、新たな研究手法を模索されていた時期といえる。『栃木県史』『日本近代教育百年史』などの編纂を進めるとともに、「近世下野農村における手習塾の成立と展開~筆子名寄帳の分析を中心に~」(『栃木県史研究』第13号、1977年)を執筆し、総体としての寺子屋・手習塾研究から個別研究への道筋を切り開かれた。この他、郷学概念の規定に取り組まれた「郷学論」(幕末維新期学校研究会編『近世日本における「学び」の時間と空間』所収、2010年)なども見逃すことのできない成果である。1995年から2000年まで日本女子大学に所属し、96年には、『近世庶民家訓の研究~「家」の経営と教育~』を上梓している。
 木村政伸氏と辻本雅史氏にご報告していただくが、木村氏には庶民家訓を軸とした60年代までの業績を中心に、辻本氏には70年代以降の業績を中心に論じていただくことにしたい。入江先生は常々、前近代教育史研究の開拓者というべき石川謙や高橋俊乗などの先の世代の業績に学びつつも、それを乗り越えることを意識しなければならないことを強調して止まなかった。先生の研究者としての足跡に、そうして一貫するものを見出しながら、また私たちの世代も先生の業績に真摯に向き合うべきであり、そこから前近代教育史研究の新たな展望を導き出すこととしたい。
〔大戸安弘氏 記〕

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